S3.優れた光電子材料の開発につながる合成技術の最前線
(名古屋工業大学大学院工学研究科)高木 幸治
<趣旨>
  溶液プロセスで薄膜作製可能な有機エレクトロニクス材料は、電界効果トランジスタやバルクへテロジャンクション(BHJ)太陽電池といった大面積フレキシブルデバイスの開発にとって、今や欠かせないものとなっている。パイ共役ポリマーについては、「次世代共役ポリマーの超階層制御と革新機能(平成17年度発足)」(代表:赤木和夫京都大学教授)が特定領域研究として実施され、これに続き本学会の討論会特定テーマとしても連続して活発な議論が行われてきた経緯がある。欧米やアジア諸国が当該分野において躍進を遂げつつある現在、我が国が後塵を拝さないためにも、有機エレクトロニクス材料の革新的な合成技術の確立が喫緊の課題である。
 有機エレクトロニクス材料の性能を左右する因子として、パイ電子系の化学構造が挙げられる。ポリチオフェン系材料において指摘されているように、芳香環の電子密度、側鎖置換基、結合様式が有効共役長、光吸収帯、エネルギーレベルを決定している。さらに、光電子デバイスでは薄膜として用いるため、基板表面処理、製膜条件、添加剤もキャリヤ移動度や光電変換効率に大きく影響する。特に、フラーレン誘導体をアクセプター分子とするBHJ太陽電池では、"Material"と"Processing"が噛み合ないと抜本的な性能向上には繋がらないが、理想的なバクルへテロ構造を与えうる材料設計指針はなく、多くの場合、経験とカンに頼っているのが現実である。かかる情勢において、"Processing"分野からの高い要請に応えるためにも、"Material"の合成技術を一層深化させることが肝要である。
 パイ共役ポリマーの精密合成としては、(触媒移動型)連鎖重縮合、炭素?水素結合活性化を利用する原子利用効率の高い重合、電子豊富アルキンのクリック反応に基づく重合といった有機合成化学をベースとする新しい方法論が提案されている。また、有機エレクトロニクス材料の立体構造も物性や機能性をブレークスルーするには欠かせないことから、らせん構造をとるポリマーやパイ電子系のスタッキングを制御したポリマーも精力的に合成されている。さらに、パイ共役ポリマーの構造単位となりうるパイ共役オリゴマーについても、新しい炭素?炭素結合、あるいは炭素?ヘテロ原子結合の形成が可能となっており、機能性材料の宝庫であるため、注視していかなければならない領域である。
 以上のように、本特定テーマでは、パイ共役オリゴマーやポリマーの精密合成および構造に関する研究に興味をもつ研究者が会して、優れた光電子材料の開発につながる討論をしたいと考えています。
 是非、この分野で活発な研究を展開されている貴方に、次のような特定テーマ分野で研究成果を発表し、討論に参加していただきますようお願いし申し上げます。
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