S5.分子特異点を活かしたソフトマテリアル設計
(九州大学先導物質化学研究所)大塚 英幸
<趣旨>
 高分子、生体分子、超分子などを構成単位とするソフトマテリアルに目的とする機能・物性を付与するには、精密なマテリアル設計が重要である。しかしながら、高分子の末端・分岐点・架橋点などに代表される微小・微量部分は、材料全体に対して機能や物性面で大きな影響を与えることが知られているにも関わらず、これまであまり注目されてこなかった。ソフトマテリアルにおいて、このように系全体から見た場合、他とは異なる微小・微量な部分であるが、系全体の機能に重要な役割を担う特異的部分を、化学的環境において時空間制御することが可能となれば、物質の諸性質を劇的に変えることができるはずである。本特定テーマでは、このような特異的部分を「分子特異点」と考え、関連する設計・構築・構造・物性・機能・解析について横断的に議論を深め、次世代ソフトマテリアル創製の新たな展開を期待する。
 近年、ソフトマテリアルの分子レベルでの精密な構造制御は目覚ましい発展を遂げており、種々の反応性や機能性を備えた官能基をソフトマテリアルの様々な部位に導入することが可能になりつつあり、分子特異点に起因するユニークな階層構造や機能をソフトマテリアルに提供できる土壌は既に整っている。例えば、特殊な分子構造を特異点としてソフトマテリアル中に組み込むことで、刺激応答性、自己修復性などの機能性が発現すると期待される。また、走査プローブ顕微鏡や電子顕微鏡等の高性能化、表面・界面選択分光や散乱技術、シミュレーション技術等に代表される解析技術の近年の著しい発展は、表面・境界面や超薄膜等の束縛空間における高分子の末端基、分岐構造および結晶成長点等の構造やダイナミクスの研究を可能としており、これらの技術をうまく使うことで末端基・分岐構造・結晶成長点の運動を時空間で制御することによる新たな物性および機能の研究が期待できる。さらに、計算機科学の急速な発展により、特異点が実験系全体の構造形成や分子運動挙動に及ぼす影響の予想も可能となりつつある。このように、重合技術・合成技術と精緻なキャラクタリゼーション法の発展は、これまで制御や解析が困難であった分子特異点に、精密制御の新風を吹き込むことにも繋がると考えている。
 そこで、本特定テーマでは、「分子特異点」をキーワードとして、ソフトマテリアルの設計・合成、構造評価、機能・物性、解析技術に関する研究に興味をもつ研究者が一堂に会して議論し、分子特異点という新しい視点を強く意識することで、次世代のソフトマテリアル創製につながる討論をしたいと考えています。
 是非、この分野で活発な研究を展開されている貴方に、次のような特定テーマ分野で研究成果を発表し、討論に参加していただきますようお願い申し上げます。
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