S10.水素・酸素の輸送・反応・分離を制御する高分子 |
(首都大学東京 大学院都市環境科学研究科)川上 浩良 |
<趣旨> 環境低負荷型で持続可能な活力のある社会を実現するには、高効率な環境・エネルギー技術の発展が望まれています。国土が狭く資源に乏しい日本において、今以上に産業を発展させ、多くの人々が高度な生活を営むには、安心してエネルギーを利用できる社会インフラの構築が必要不可欠です。水素は、宇宙全体で見ると宇宙の全質量の75%を占め、水素こそ地球を含む全宇宙のエネルギー原理の根本であるという意味では、究極の自然エネルギーであると言えます。水素をベースとした『水素エネルギー社会』の実現は、エネルギー・環境分野における重要課題の1つとして位置付けられていますが、水素エネルギーの普及にはまだ多くの技術的問題があります。特に水素エネルギーの実現には、水素の製造、貯蔵、輸送、利用を含めた全体のシステムを構築する必要があります。燃料電池用高分子電解質膜に代表されるように、この分野で高分子が果たす役割は大きく、水素の精製、分離、貯蔵に関しても高分子材料に対しては多大な期待が寄せられています。水を原料とした水素をベースとする『水素エネルギーサイクル』には、水の電気分解によらない方法で水素を得る技術の確立も急がれています。高分子の高次構造を用いた触媒等の反応場としての役割も必要です。 一方、省エネルギーの実現も、エネルギー・環境分野における重要な課題の1つです。特に空気中の酸素に注目すると、燃焼システムにおいて空気中からの酸素を高純度で用いることができれば、エネルギー利用効率と省エネルギー化が格段に向上することが知られています。低コストで高純度酸素が利用できる酸素富化膜の開発は、二酸化炭素排出量の削減にも大きく貢献し、低炭素社会実現への寄与も大きいです。また、水素-酸素燃料電池の水素燃料を金属に置き換えた金属-空気電池は、エネルギー密度が桁違いに大きい次世代蓄電池として注目されています。 以上のように、本特定テーマでは、これまで高分子学会で殆ど取り上げられてこなかった、水素や酸素といった気体とエネルギー、高分子をキーワードとして、世界的な課題である環境とエネルギーの問題について議論したいと考えております。もちろん、この課題の中には、二酸化炭素等の温室効果カ?ス削減も含まれており、これら分野で活躍されている皆様にご発表頂き、活発な議論をお願いしたいと思います。本特定テーマにおいてこれら分野での諸問題を討論し、将来の方向性を探索できればと考えております。 |
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