S17.スマートバイオマテリアル
(関西大学化学生命工学部)大矢 裕一
(九州大学先導物質化学研究所)丸山 厚
<趣旨>
 スマートマテリアルとは、分子そのものや、温度、pHなどの外部環境や刺激を「認識」して、物性・形状を大きく変化させたり、分子を識別したりすることによって「働きかける」材料であると捉えることができます。このスマートマテリアルの応用対象を生医学領域へ向けたものが「スマートバイオマテリアル」です。
 現在、我が国の医療では、医療用器具の殆どを輸入に頼っており、日本独自の材料・技術の開発が強く求められています。また、治癒率を高めるばかりでなく、患者と医師の双方の負担を軽減することも重要な課題です。さらに、簡便な手法で疾病を早期に発見したり、疾病には至っていない「未病」状態で適切な処置を講じたりすることで医療費を抑制することも喫緊の課題となっています。
 これまでの医療における治療・診断技術の発展の歴史を振り返ると、医学そのものの進歩だけでなく、医療用の材料・機械の発展が医療のあり方に大きな変革を与えてきたことは明らかです。特に、人工臓器、カテーテルなど先進的医療器具の実現に高分子材料が果たしてきた役割は極めて大きいと言えます。しかしながら、これまでの医療用高分子材料では、既存の材料の中から適合性の良いものをそのまま、あるいは用途に合わせて改良して使用されてきた例が殆どです。高分子化学が医療に対してさらなる貢献を果たし、次世代医療を牽引していくことを考えた場合、その一つの方向は、これまでにない機能・性能を持った「新しい材料」を開発し、それによって、今まで不可能であった、あるいは考えることもできなかったような新しい治療・診断の方法を創出することでしょう。それを先導する「新しい材料」の候補となる一群は、「スマートバイオマテリアル」であると考えられます。高い機能を有するスマートバイオマテリアルによって、ごく少量のサンプルから疾病や感染を早期かつ迅速・低侵襲に診断する手法、薬物治療や遺伝子治療の効果を高めるドラッグ・デリバリー・システム(DDS)、再生医療を支える細胞操作技術や組織の再生、さらにはこれまでの概念とは全く異なる新しい治療法、などを提案・実現することが大いに期待されます。
 本セッションでは、様々な切り口のスマートバイオマテリアルの概念と実用研究の例を提示していただき、医療周辺の境界科学に関する深い理解と、真に実用化に至る医用材料化学の可能性について討論したいと考えております。是非、この分野で活発なご研究を展開されている貴方に、次のような特定テーマ分野で研究成果を発表し、討論に参加していただきますようお願いし申し上げます。
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