S6.ポリウレタンの科学
(九州大学先導物質化学研究所)小椎尾 謙
<趣旨>
  ポリウレタンと聞くと、学術的な研究の見地からは複雑で単純明快に構造評価や物性制御ができない扱いにくい材料と感じられる方が多いかと思います。しかしながら、ポリウレタンは姿かたちを変えて、唯一無二の材料として私たちの身の回りに数多く存在している重要な高分子の一つでありまして、高機能化・高性能化は依然として重要な命題です。
  ポリウレタンは、1960年代後半から精力的に研究が始められて以来、数多くの学術的な現象の解明から、実用のための性能の最適化が行われてきました。ポリウレタンの応用例としては、発泡体(フォーム)、コーティング剤、接着剤、シーラント、弾性繊維から生医学材料にまで及びます。このように、ポリウレタンが広範な応用範囲を有するのは、極性が極めて高いウレタン基の存在に由来しています。この極性基は、セグメントを形成して凝集力が高い場合には自己組織的に明瞭な擬架橋部を形成しますし、凝集力が弱い場合であっても強い分子間相互作用を発現しますので、結果的に多彩な物性の発現を可能にます。過去の数多くの研究により、その構造と物性の関係は解明された部分もありますが、依然として未解明な部分も多い状況です。
  ポリウレタンの合成は、ジイソシアネートを原料とする場合が多いですが、イソシアネートを介さない新しい合成法も数多く報告されています。また、自動車用クッションなどにおいても、生物由来原料が利用されるようになっているなど、ポリウレタンの分野においても、バイオマスの利用が積極的に進められています。さらには、長年明らかにされていない生体適合性の発現機構の観点から、表面構造の解析・制御に関する研究やハイブリッド化に関する研究も進められています。
  本特定テーマでは、ポリウレタン原料の開発、ポリウレタンの合成、加工、ナノ構造と物性の関係などポリウレタンを少しでも取り扱われている産・学・官のあらゆる方のご参加を期待しております。いろいろな立場の方にご参集いただきまして、最新のポリウレタンの科学に関して、かつてない議論を行うことができますことを祈念しております。4つの特定テーマ分野を設定させていただいておりますが、これらの分野に限らずウレタンに関するご研究・開発に携われている数多くの方々のご参加をお待ち申し上げております。
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