S9.高分子鎖に迫る精密高分子材料解析の最前線 |
(京都工芸繊維大学工芸科学研究科)藤原 進 |
<趣旨> 鎖状に連なった分子である高分子は、内部自由度が非常に大きいため、構造的な多様性を有している。そして、この構造的多様性が、高分子物質のもつ様々な機能の基礎となっている。例えば、高分子の結晶を例に説明すると、通常高分子鎖による結晶構造は、分子鎖が長い故、折りたたまれた結晶領域とそれ以外の非晶領域が混在した不完全な構造となる。一般に結晶性高分子と呼ばれる高分子は、そのような不完全な結晶をもとにして複雑で階層的な構造をとる。階層構造をとることは、ブロックポリマーの自己組織化においても見られる。さらに、高分子は様々な高次構造を形成し、実に多様で多彩な物理的・化学的性質を示すことから幅広い分野で役に立っている。 高分子物質の持つ多彩な性質を理解する上で、構造解析や物性解析などの材料解析は必要不可欠である。従来の材料解析では、X線回折や熱分析などの実験、平均場や自己無撞着場などの理論、分子動力学法やモンテカルロ法などの分子シミュレーションによる、多数の分子鎖に渡って平均化された物理量の解析が主流であった。それに対して、近年、近接場光学顕微鏡や単一分子分光などの実験により、高分子鎖一本一本のコンフォメーションが実空間で直接観察できるようになってきた。また、大規模分子シミュレーション結果の可視化・解析手法を駆使することにより、個々の高分子鎖の構造やダイナミクスも明らかにされ始めてきた。 高分子材料の用途はますます広がっており、それに伴い必要とされる機能もさらに細分化されつつある。このように細分化された高機能・特殊機能を有する高分子材料を効率的に開発するために、単一分子レベルでの精密高分子材料解析が非常に有効である。以上のような状況の下、本特定テーマでは、「精密高分子材料解析」をキーワードとして、シミュレーション、構造解析実験、物性解析実験、融合的解析手法による研究に興味を持つ研究者が一堂に会して、高分子鎖を意識した観点から今後の展開へ向けた討論をしていただきたいと考えている。関係諸氏には是非ここで研究成果を発表し、討論に参加して頂ければ幸いである。 |
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