S2.メタルフリーを鍵とする高分子化学 ~高分子合成と新機能~ |
(徳島大学大学院理工学研究部) 押村 美幸 (徳島大学大学院理工学研究部) 荒川 幸弘 |
<趣旨> チーグラー・ナッタ触媒をはじめオレフィンメタセシス法、クロスカップリング反応といった過去のノーベル化学賞は、現代の化学産業を築いた立役者が金属(メタル)触媒であったことを物語る。しかしながら、金属触媒の使用には生成物への金属残留や環境汚染、深刻化するレアメタルの枯渇や価格高騰など大きなリスクを伴うため、今後は持続可能な循環型社会の実現に向け、メタルフリー触媒による反応系・重合系の開発が急務である。 メタルフリーな触媒を称する有機分子触媒は、2000年以降、特に低分子化合物の不斉合成法開発を中心に大きく発展してきたが、2001年にDMAPを触媒に用いたラクチドの開環重合が有機分子触媒による初のリビング重合として報告されて以来、高分子合成への利用も確実に進んでいる。環状エステルや環状カーボネート、エポキシドなどの環状モノマーの開環重合や、(メタ)アクリル酸エステル類などのビニルモノマーの重合、逐次重合によるポリエステルの合成など、幅広く研究の裾野が広がりつつあり、重合活性、化学選択性、高分子構造制御など、新規精密重合系の開発が期待される。 酵素触媒は、温和な条件下で高い活性を示し、基質・立体・位置・官能基選択性により高機能・高性能高分子材料を創製可能である。中でも特に、自然界に多種多様存在し工業的に安価で入手や容易なことから、加水分解酵素が多く用いられる。1980年代以降、リパーゼ触媒を用いる脂肪族ポリエステルの合成法を契機とし、機能性ポリエステルやフラボノイドポリマーの酵素合成、フェノール類の酵素触媒酸化重合などが報告されている。 高機能性高分子材料の創製において、リビング重合は有用な手法としての地位を確立している。多くの極性官能基と共存できる汎用性と、モノマーや溶媒の純度などにあまり影響されない簡便性を併せ持つリビングラジカル重合、中でもニトロキシドを介するリビングラジカル重合(NMP)や、可逆的付加・脱離連鎖移動重合反応(RAFT)は、メタルフリーな重合系としての利用も期待される。 これら高分子合成に加えて、メタルフリーな高分子触媒や超分子触媒の開発もまた、新たな展開を迎えている。効率的かつ実践的な触媒再利用やフロー精密合成が実現されはじめ、従来の低分子触媒を凌駕する活性や選択性も見出されている。各種有機分子触媒の能力を最大限以上に引き出す高分子化・超分子化技術の開発が益々重要となる。 以上のように、本特定テーマでは、「メタルフリー」をキーワードとして、有機分子触媒や酵素触媒を用いた重合や、リビング重合、高分子・超分子触媒の創成と機能に関する研究に興味をもつ研究者が会して、国内外の研究者が研究成果を発表・討論し、最先端の情報交換を行いたいと考えています。是非、この分野で活発な研究を展開されている皆様方の積極的な発表申込をよろしくお願い申し上げます。 |
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