S6.高分子結晶化における秩序構造形成の分子論的考察
(岡山大学大学院環境生命科学研究科)山崎 慎一
<趣旨>
 ひものような長い高分子が、結晶化やその他の相転移において、どのような過程を経て秩序構造を形成するのかは、古くから興味が持たれているテーマであり、基礎研究分野でも産業応用分野においても重要な課題である。高分子の結晶化においては、A. Kellerによるポリエチレン単結晶の分子鎖折りたたみ構造のエポックメイキングな発表から60年が経過しようとしている。この発見は、高分子単結晶の中に長いひも状の高分子鎖がどのように配列しているかを明らかにした点で革新的であった。その後、現在に至るまで、産学界を問わず、多くの研究者によって高分子結晶化における秩序構造形成の分子レベルでのメカニズムを明らかにするべく心血が注がれてきた。立体規則性、連鎖配列や分岐構造などの分子構造の明確な試料の調製を可能にする精密重合法の発展、時間・空間分解能の非常に高い放射光等の量子ビームを駆使した研究、電子線トモグラフィーに代表される3次元構造の構築、近年のコンピュータの計算処理能力の飛躍的な向上によって可能になったより複雑な場のシミュレーションなど、近年の合成技術や観察・評価技術などの進歩によって、高分子の結晶化の分子レベルでの描写を明らかにすることが可能になりつつある。
 結晶化における分子レベルでの秩序構造形成メカニズムの議論は、成形加工、繊維加工、レオロジーや生産技術開発分野が抱えている様々な問題解決の鍵となることは明らかである。高分子材料が潜在的に持っている「高性能」を極限まで引き出すためには、材料中の高分子鎖配列を分子レベルで制御することが必要不可欠であり、それは分子レベルでの結晶秩序構造形成メカニズムの理解なしには為し得ない。
 以上のように、本特定テーマでは、「分子論的考察」をキーワードに掲げ、高分子結晶化における秩序構造形成過程の分子論的メカニズム解明に対する現段階での理解と課題を明らかにし、それが成形加工、レオロジー、生産技術開発などの分野が抱える問題解決にどのように関わっていけるか、将来展望を討論する場としたい。今まで得られた知見や最新の研究成果を総合的に考察し、議論することで、今後、このテーマの研究がさらに活発になり、少しでも多くの課題が解決されることを期待したい。
 是非、この分野で活発な研究を展開されている貴方に、次のような特定テーマ分野で研究成果を発表し、討論に参加していただきますようお願いし申し上げます。
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