S9.高性能エネルギーデバイスのための高分子材料 |
(早稲田大学理工学術院)小柳津 研一 |
<趣旨> 低炭素社会の実現とエネルギーの安全保障といった社会要請を背景として、低環境負荷で高効率なエネルギーデバイスへの期待は益々高まっている。多様化する小型・携帯電子機器や、電気自動車のための高容量・高出力電源として、また、再生可能エネルギーの大規模利用を支える分散型電源として、燃料電池や二次電池などの電気化学エネルギーデバイスの高性能化と、関連する水素利用技術の確立は重要な課題である。これらはデバイスを構成する材料に関する既成概念にとらわれない技術革新が必須であり、新しい有機材料を提供しうる高分子化学の果たす役割は極めて大きい。エネルギーデバイスの高性能化には、化学エネルギーと電気エネルギーの変換に関わる分子レベルの物質設計から、導電助剤の分散状態や集電体との界面構造、デバイス全体までを俯瞰したマルチスケールな構造制御が求められ、高分子化学の多様な方法論を駆使した展開が始まっている。 燃料電池の社会実装が世界に先駆けて進んでいるわが国では、さらなる普及に向け、電解質膜、触媒、システム技術のすべてにおいて性能・耐久性向上と低コスト化が課題となっている。様々な部材で構成される固体高分子形燃料電池においては、フッ素系や炭化水素系に加え有機無機複合体などで新しい電解質材料が提案され、触媒活性の向上や低白金化に資する高分子、燃料電池内の物質移動や電極反応の評価・解析に役立つ高分子などを用いて高効率化に向けた検討が進んでいる。燃料電池の普及には水素技術を理解する必要があり、将来の再生可能エネルギーの本格利用を視野に入れ、電解質膜を利用した水電解による水素製造や貯蔵・輸送技術、水素分離膜や膜反応器などにおいて、水素社会の実現に向けた取り組みが活性化している。 一方、リチウムイオン電池を中心とする二次電池の分野では、電解質、電極活物質、集電体、セパレータ、バインダ、封止材などで次々と新材料が提案されている。高いエネルギー密度を発揮するLiメタル負極や硫黄正極をいかに使いこなすか、また、Li酸化物正極のレート特性をいかに高めるかといった課題に対して、高分子を用いた斬新なアイデアが生まれている。全固体電池やレドックスフロー電池のほか、電池と密接に関連する蓄電デバイスであるキャパシタにおいても材料面でのブレークスルーが始まっており、高速充電やフレキシブル化といったキーワードが定着しつつある。 本特定テーマでは、「エネルギーデバイスを支える高分子材料」をキーワードとして、燃料電池、二次電池、水素製造・貯蔵、キャパシタ等に関わる高分子の設計と合成、エネルギーの変換・貯蔵に関連した基礎物性、デバイス特性および関連技術に興味をもつ研究者が会して、多様化するエネルギーの将来について議論し、次世代エネルギーデバイスの創製につながる討論をしたいと考えています。 是非、この分野で活発な研究を展開されている皆様に、次のような分野で研究成果を発表し、討論に参加いただきますようお願いし申し上げます。 |
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