ポリワーズ ま行 

ポリワーズ

〔ま行〕

水構造の(スロー)ダイナミックス
液体状態の水の中で,各水分子は完全にランダムな位置や方向をとっているわけではない。分子間相互作用を反映したダイナミックスは,並進運動の拡散係数や緩和時間-誘電緩和であれば分子の方向相関の特性時間-などで特徴づけられる。一方,分子は様々な運動の自由度や凝集構造をとるので,運動を担う単位は多様である。光の周波数領域での観測であれば,水分子の電子構造の動的な挙動を見ていることになるし,さらに低周波数・長時間領域側ならば,分子の局所的な原子グループや,さらに複数の水分子が形成する凝集構造やその一部分の動的振る舞いを見ているかもしれない。高分子のダイナミックスがノーマルモードで表現されるように,分子間相互作用を通して構造化した低分子量液体における分子の凝集構造も階層的に振る舞い,1分子は複数の運動モードに寄与するだろう。混合系では溶質分子や分散粒子との相互作用で形成される水構造やその束縛の様子がダイナミックスに反映される。Vol.58 P.65

マクロダイポール<p634>
αヘリックスを形成するポリペプチド鎖が有している大きなダイポールモーメントを意味する.ペプチド結合のダイポールモーメントは,ほぼヘリックス軸に沿って配向しており,αへリックス全体としては,1/2の正電荷をN末端に,1/2の負電荷をC末端に配置したダイポールに近似できる。αヘリックス構造では1残基毎に1.5オングストロームだけヘリックス軸に沿って鎖が伸びるので,n残基からなるヘリックスペプチドは,3.5 n Debyeのダイポールモーメントを有するようになる。マクロダイポールについては,古くから研究されてきたが,タンパク質中での働きについては,最近になって明らかになりつつある。ペプチド結合のダイポールモーメントの規則正しい配向が,へリックス構造の安定化に役立っているが,さらに,形成されるマクロダイポールは,タンパク質中での三次構造形成や,酵素では電荷を有する基質の結合部位への取り込みなど,種々のタンパク質機能の発現において,ダイポールーダイポールあるいはダイポール-イオン相互作用を通して重要である。 Kobunshi, Vol.40 , p.639 (1991)

ミクロ相分離構造<p584>
高分子AとBの混合物はAとBが互いに非相溶な場合,平衡状態では巨視的に相分離する。ところがAとBが化学結合で連結されたブロック共重合体やグラフト共重合体では,相分離は数nm~数百nmの分子オーダーの大きさをもったミクロドメインに限定される。このような秩序構造をミクロ相分離構造(ミクロドメイン構造)と呼ぶ。  ミクロ相分離の形態は組成(AおよびBの体積分率),分子量,相互作用パラメーター,結合様式や温度,成形条件によって支配される。例えばMolauによるとAとBのブロック(グラフト)共重合体のミクロ相分離の形態は5種の基本的ドメイン構造に分類され,A成分の体積分率の増加にともない,A球→Aシリンダー→A,Bラメラ→Bシリンダー→B球と秩序構造が変化する。 ポリスチレン-ポリイソプレン-ポリスチレン(SLS)トリブロック共重合体はミクロ相分離構造を示す代表的な高分子である。ポリスチレンドメインが室温では凍結され物理的架橋として働くため,熱可塑性エラストマーとして工業的に利用されている。 Kobunshi, Vol.41, p.594 (1992)

ムーニー・リブリンプロット<p205>
ムーニー・リブリン式は架橋ゴムの大変形を記述する弾性理論であり,連続体力学を基礎とする(つまり,応力はひずみエネルギー密度関数で表わされる)。ムーニー・リブリン式 の最終的な帰結式は次式で与えられる。 f / (λ-1/λ2) = 2(C1+C2/λ)  (f:応力,λ:歪,C1, C2:定数) 上式の左辺と歪の逆数1/λの関係をムーニー・リブリンプロットという。 古典ゴム弾性論の予測からは,横軸に平行な直線が与えられるが,通常の架橋ゴムではある傾きをもった直線となる。このプロットの縦軸の切片から定数C1を,直線の傾きから定数C2を決定できる。C1は古典ゴム弾性論における架橋密度に相当すると解釈されるが,C2の解釈に関する結論は未だ出ていないようである。ウレタンゴムの場合,C2項は極性基の増大に伴い増加することが経験的に知られており,低伸度域における直線からの背異は,ハードセグメントの異常配向に起因すると解釈されている。 Kobunshi, Vol.41 , p.211 (1992)

メソゲン<p673>
低分子液晶においては液晶相を示す分子をメソゲンとよぶ。この場合メソゲンは,剛直部および末端基よりなることが多い。繰り返し単位を有する高分子液晶の場合においては,液晶性発現のもとになる剛直な部位をメソゲン基とする。最も基本的な棒状メソゲン基としては,ビフェニルあるいはフェニルベンゾエート構造などが代表的である。高分子液晶の分子設計においては,このメソゲン基を高分子の主鎖あるいは側鎖に組み込むという手法が通常用いられる。たとえば後者の場合,側鎖型液晶高分子構造は高分子骨格・スペーサー・メソゲン基・末端基から構築する。このような分子設計手法により,さまざまな構造・性質の高分子液晶が合成されてきている。  また,水素結合のような非共有結合により構築される新しいタイプのメソゲンも報告されている。このように,従来の液晶分子設計の常識の枠を越えたメソゲン・メソゲン基が報告されてきており,バラエティーはより拡大しつつある。 Kobunshi, Vol.42 , p.692 (1993)

メルトフラクチャー<p756>
溶融樹脂を細い孔やスリットから押出す場合,押出速度がある限界以上になったり,高分子量の樹脂を低い押出温度で流すとダイ内の流れに乱れが生じ,ダイ押出物の表面に凹凸ができたり,らせん状の流れになり,表面が荒れる現象である。メルトフラクチャーが発生すると,成形品の外観が低下する。  この現象は樹脂のもつダイ内の臨界せん断応力以上になると発生すると言われており,ダイオリフィスに流れ込む溶融樹脂の速度が大きすぎるとダイオリフィス内で平行流線が形成できなくなるため,不規則な流れとなり,流れに乱れが生じる現象である。ダイオリフィスの長さが短い場合,ダイオリフィスヘの流入角が不適当な時やダイ内部の材料流路に死角が存在する時にもこの現象が見られる。  この現象は材料のもつ粘弾性的性質,特に弾性が原因で生じやすいと考えられており,一つの弾性破壊と考える説が有力である。押出速度を高速化するとこの現象が発生しやすくなるので,高生産性を得る上でネックになっている。  溶融樹脂の剪断速度,せん断応力の流動曲線では両者の値が大きい所で発生し,メルトフラクチャー発生箇所において不連続な点が存在する。また,ポリマーの種類によって発生点は異なる。高密度ポリエチレンや線状低密度ポリエチレンなど線状高分子構造をもつ材料では,メルトフラクチャーが生じると流出量が増大する。 Kobunshi, Vol.42 , p.763 (1993)

モルテングロビュール状態<p625>
(Molten Glo-bule)従来,水可溶性タンパク質は天然粒状かランダム変性状のいずれかの形態しか取り得ないと考えられていたが,最近その中間構造,コンパクト粒状で立体二次構造を保有し,しかしその相互位置は揺らぎ,CDなどから推定される三次構造は見かけ上は消失の溶融粒状(molten globule)形態も可能形態と指摘された。これは日本,ソビエトでα-ラクトアルブミン,チトクロムcで,その後,他のいくつかのタンパク質でも存在が指摘され,またα-ラクトアルブミンなどの折れたたみ中間体の可能形態と考えられている。この形態の熱転移には協同性が見られないことが特色である。 〔レビューは国内外にほとんどない.次のものが必ず引用されている。K. Kuwajima: Protains,6: 87~103(1989)〕Kobunshi, Vol.40 , p.639 (1991)

メソゲン骨格<p81>
液晶分子の中に含まれる棒状もしくは板状の剛直な骨格構造のこと。ビフェニル基などに代表される数多くの芳香環構造が知られている。液晶高分子はこのメソゲン骨格のつながり方により主鎖型,側鎖型,複合型に分類される。さらにその高次構造により分類すると,分子が一方向に配向するが重心がランダムなネマチック型,および層構造を有する秩序性の高いスメクチック型などが代表的な構造として知られている。高い熱伝導性を有するのは最も剛直な構造となる主鎖型のスメクチック型高分子である。優れた機械的強度を有することも特徴である。その反面,モノマーの融点が高くなり,反応制御が難しくなる。なお,液晶とは流動性を有しつつ配向に関する秩序性を保持している異方性液体のことであり,液晶的な状態を橋架け固定化した三次元網目構造のエポキシ樹脂のような高分子は厳密には液晶とは言えない。しかし,液晶的秩序構造を有する高次構造を形成するために液晶エポキシ樹脂と呼ばれることが多い。  Kobunshi, Vol.59 , p.81 (2010)

マイクロセルラープラスチック <p145>
1981年にマサチューセッツ工科大学のNam P. Suh教授らによって提案された,気泡径が0.1~10μm,気泡数密度が109~1015個cmミ3の独立気泡を有するプラスチックの総称概念である。プラスチック中にある欠陥よりも小さな,気泡核形成により作られたミクロボイドであれば,欠陥を顕在化せずに軽量化できるのではないかと考えられたことに端を発している。マイクロセルラープラスチックの特徴は,気泡径が微細なため材料の機械的特性を大きく損なうことなく軽量化でき,材料の相対密度を5~98%まで自由に低減できることであり,ニートのプラスチックに比べ,衝撃強度,比強度,熱的安定性,低誘電率,低熱伝導度,電気的特性等が優れたものも報告されている。また,開発当初から二酸化炭素や窒素などの不活性ガスを発泡剤として用いており,発泡剤の環境負荷が低いことも特徴として挙げられる。  Kobunshi, Vol.59 , p.157 (2010)

モノマー連鎖と反応性比<p781>
2種類以上のモノマーを重合する共重合では,モノマーがどのような順序でつながってポリマーを形成するか,すなわちモノマー連鎖は,生成ポリマーの構造や物性に大きな影響を及ぼす重要な因子である。このため,共重合体中のモノマー連鎖を知ることは共重合体を設計・合成・利用する上で重要である。モノマー連鎖は,一般に共重合におけるモノマー反応性比と,ポリマーが生成するときの重合系中のモノマーの組成比から,予測することができる。ラジカル重合はさまざまなビニルモノマーの共重合を可能とするため,そのモノマー反応性比は代表的なモノマーの組み合わせについてはすでに求められており,ポリマーハンドブックなどから調べることができる。一方,適切な文献値がない場合には,さまざまなモノマー組成比で共重合を行い,重合初期で得られた共重合体中に含まれるモノマー単位の組成比を分光学的手法などで求め,これらの値を用いてモノマー反応性比を決定することができる。多くのラジカル共重合では,モノマーの反応性比は,生長末端のモノマー単位のみによって決定される末端基モデルで記述される場合が多いが,さらに一つ前のモノマー単位がモノマー反応性に影響を及ぼし,前末端基モデルでより良く記述される場合もある。末端基モデルの場合,モノマー反応性比は,あるモノマー単位のラジカル末端が,共重合相手のモノマーに比べてどれだけ同じモノマーに反応しやすいかを示す速度定数の比であらわされる。たとえば,この値が1より小さくなるモノマーの組み合わせでは交互的な連鎖ができやすく,さらにともに0になると完全な交互共重合体が生成する。  Kobunshi, Vol.59 , p.789 (2010)

モスアイ構造<p841>
蛾(moth)は夜行性で夜に飛ぶことができ,それは眼(eye)の構造に由来する。蛾の複眼の表面にはサイズが約150 nmの突起が約200 nmの間隔で規則正しく配列している。周期的に配列した凸凹構造により表面厚み方向の屈折率が連続的に変化するために,反射光が生じることなく,すべての光を眼に入れることができる。それにより蛾は,微量な光を効率よく眼に取り込むことができ,さらには反射光により眼が光らないために外敵から見つからずにすみ,夜に飛ぶことができる。このように光を反射させないナノメートル次元の微細な凸凹構造をモスアイ構造と呼んでいる。モスアイ構造はリソグラフ,ナノインプリント,エッチング,粒子のコーティングなどにより人工的に作られており,ディスプレイにおける外光の映り込みやグレアの防止,太陽電池における光吸収率の向上,カメラ用レンズの反射光によるゴースト発生の防止などに利用されている。  Kobunshi, Vol.59 , p.857 (2010)

メカノタクシス<p302>
接着系細胞が基材表面上の硬領域を指向して移動する性質。外的刺激や種々の誘導因子の強度 勾配に応答する細胞の指向性運動の一種であり,機械的接触走性と呼ばれる。細胞の接触走性(thigmotaxis) には一般に,基材の形状特性,化学特性,力学特性のそれぞれの因子が複合的に関与するが,これらの いずれかの単独の要因の寄与が細胞運動の指向性を決定し得る状況においてのみ形状誘導接触走性,化 学的接触走性,機械的接触走性などのカテゴライズが可能であり,メカノタクシスはこの意味で材料と細胞の機械力学的相互作用が駆動要因に関与する走 性である。細胞は自身の細胞骨格系が生成する内部応力を蓄積しており,基材に接着した状態ではこの 細胞側の内部応力と材料表面側の変形応力の釣り合いを実現するように,細胞内部での生物学的・生化 学的応答が制御されている。メカノタクシスは細胞がこのような材料との機械力学的相互作用を検知し, 自らの接着において好ましく安定であるより硬い領域を選択する運動であると考えられている。 Kobunshi, Vol.60 , p.310 (2011)